一日目 前半

2005年11月4日
 朝八時。僕は時間通りに教室へと到着した。見回すと、どうやら僕以外の役者も揃っているようだ。ふぅ、と息をついて一階から運んできた衣装をその場に置いた。普段は下駄箱から一番近い教室を使っているのに、文化祭中だけは下駄箱から最も遠い教室──しかも階段を二階分も昇らなくてはならない──を使わされる。全く、自分の教室を使わない出し物にすると、こんな不都合があるなんて。ここで、演出係のKからの声がかかった。役者は発声と滑舌をやれ、と言う指示だ。そして、なんとそれはベランダで行うらしい。それでは、下で作業をしている友人たちに丸聞こえではないか、そんな風に思ったが、Kの目的はそれのようだ。本番で緊張しないように、今のうちに恥ずかしいことをしておけ、ということだ。素直に従い、ベランダへと出る。途端、眩しい光が僕を照らした。朝日、とは呼べない時間かもしれないが、まだまだ低い太陽が僕らを照らした。朝日に向かって発声だ、と喜んでいる奴も居る。まぁ、これはこれで悪くない。爽やかな気分だった。柄にもなく、これからの文化祭の成功を祈った。そして、発声と滑舌を終えると、集会へと向かった。
 集会はいつもの年と変わらない。教師、文化祭実行委員からの連絡の後に、高三の各班の生徒たちが、思い思いの宣伝を行う。演劇調に仕立てた者、真面目に宣伝をする者、色々である。高三が時間を使いすぎてしまったらしく、予定よりも若干遅れて集会は終了した。
 教室に帰り、掃除を終えた。さぁ、楽しい文化祭の始まりだ──といいたい所であったが、演劇のために、十時半にはこの教室に帰ってこなければならない。文化祭が始まるのは九時半。約一時間程度の余裕が与えられるわけだ。まずは、古本市に向かうことにした。チケットを購入するのは、友人に頼めば問題あるまい。
 古本市も九時半から。しかし、数分前にその現場に到着すると、すでに人が列を作っていた。もう並んでも構わない時間のようなので、列の最後尾に着いた。三列縦隊で並んでいる。目の前には古本の山があり、今すぐにでも商品を漁りたい。しかし、それは許されない。コーンとバーによって仕切られ、時間までは中に入ることすら叶わない。そして、時間がやってきた。僕の目の前でバーが下ろされる。寸でのところで、第一陣に入れなかったようだ。例年と同じよう、大体二十人程度が一グループとなって古本市へと入る仕組みだ。五分間程度で、僕の居る第二陣が中に入ることが出来た。ライトノベルと漫画をざっと見回す。すぐに、気に入った品を見つけることが出来た。値段も安く手ごろだ。すぐに購入を決めた。
 その後は、縁日班の主催しているオークションに参加することにした。この時間のメイン商品は、アニメグッズなど所謂アキバ系の商品である。その場の空気だけで、同じ商品につく値段は十倍なんてものじゃなく変化する。この時間帯、皆のテンションは低く、また人自体もかなり少ない。最終日に出ていれば四桁になるであろう品も、三桁前半で簡単に落としてしまえる。演劇の時間ギリギリまで、ここに居ることにした。そして、オークションが始まる。
 十時三十分、僕は幾らかの戦利品を抱えてロッカーに向かった。鍵を開け、それらを詰め込む。剣道の防具が邪魔なので、もう一つのロッカーに移した。そして、教室へ向かった。演劇の時間は、もうすぐだ。
 教室は、いつもと違った雰囲気だった。これが本番前の緊張感か。僕らは着替えを済ませると、シアターへと向かう。ドアを開け、一段一段階段を下りていった。通りなれたロッカールームも、お祭り広場も、なんだか異質な物に見えた。そして、気がつくと目の前には武道館があった。ここで、最後の確認をする。あとは個人個人の力だ。ミスをしないこと、誰かがミスをしたらフォローすること、そして、気合。前の客とキャストたちが出て行ったのを確認し、シアターへと入った。
 昨日もリハーサルで来ていたはずなのに、全く違う雰囲気に若干の戸惑いを覚えた。しかし、時間は既に無い。パネルを準備し、衣装の確認をし、小道具を揃えていたらあっという間に開演時間がやってきた。

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